山梨県の2026年上半期、交通事故はこうなっている

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「うちは死亡事故ゼロだから、大丈夫」——安全会議でこの言葉を聞くたび、私は少し身構えます。27年間、山梨県警で交通事故を見続けてきた経験からいえば、これはもっとも危ない安心の仕方だからです。

2026年の山梨県の交通事故データが、その理由をはっきり示しています。死者は前年より44%減った一方で、事故件数もけが人も増えているのです。この記事では、県警が公表している数字をもとに「なぜ死者だけが減ったのか」「経営者と安全管理者が本当に見るべき指標は何か」を、元警部の視点で整理します。

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山梨県の2026年上半期、交通事故はこうなっている

まず数字から見ていきます。山梨県警察が公表している「交通事故発生状況」(2026年7月27日時点)の本年累計は次のとおりです。

項目2026年(本年累計)2025年(同期)増減
発生件数1,081件1,049件+32件(+3.1%)
死者数5人9人−4人(−44.4%)
負傷者数1,303人1,232人+71人(+5.8%)

出典:山梨県警察「交通事故発生状況(表)」2026年7月27日時点

死者数の44.4%減は、素直に喜んでいい数字です。県警や自治体、地域の交通安全活動が積み上げてきた成果でもあります。

ただし、同じ表の中で、事故そのものは32件増え、けがをした人は71人増えています。「事故は減っていない。減ったのは、亡くなる人だけ」というのが、2026年の山梨の実像です。

見落とされている「1件あたりの負傷者数」という指標

ここからは、公表数値を使って私自身が計算した指標です。負傷者数を発生件数で割ると、「事故1件あたり、何人がけがをしたか」が出ます。

  • 2025年同期:1,232人 ÷ 1,049件 = 約1.17人/件
  • 2026年:1,303人 ÷ 1,081件 = 約1.21人/件

わずか0.04の差に見えますが、これは1件の事故に巻き込まれる人が増えていることを意味します。単独の自損事故ではなく、複数人が乗った車同士の衝突や、歩行者・自転車を巻き込む事故の比重が上がっているときに、この数字は動きます。

言い換えれば——「たまたま誰も亡くならなかっただけの事故」が、確実に増えているということです。死者数は結果指標であって、危険の量を測る指標ではありません。

元警部が見てきた「死亡事故は運、けが人は実力」

現場に27年立ってきた実感として、私はこう考えています。

死亡事故は、運。けが人の数は、実力。

同じ交差点、同じ速度、同じ不注意でも、亡くなる方が出る事故と、全員が歩いて帰れる事故があります。その差を分けるのは、衝突した角度、当たった場所、シートベルトの有無、たまたま乗っていた人数——ドライバー本人にはコントロールできない要素です。

一方で、「そもそもぶつかったかどうか」は、コントロールできます。だから、企業が安全管理の物差しにすべきなのは死亡事故の有無ではなく、ヒヤリの数、軽微な接触の数、そして事故そのものの件数です。

なぜ死者だけが減ったのか——3つの構造的な理由

1. 車が丈夫になった

エアバッグ、衝突安全ボディ、自動ブレーキ。ここ20年の車両安全性能の向上は、内閣府の交通安全白書でも死者数減少の主要因として繰り返し挙げられています。ぶつかっても死ににくい車が普及した結果です。

2. シートベルトの着用が定着した

全席シートベルトの義務化以降、自動車乗車中の死者は大きく減りました。これも「事故が減った」のではなく「事故の結果が軽くなった」話です。

3. 救急医療が進歩した

ドクターヘリ、救急搬送体制、外傷診療の高度化。かつてなら亡くなっていた重傷者が助かるようになりました。

3つとも「事故が起きた後」の対策です。つまり死者数の減少は、事故を防ぐ力が上がった証拠ではありません。ここを取り違えると、安全対策の打ち手を間違えます。

昨年のデータが示す、山梨の事故の「型」

では、山梨で実際に何が起きているのか。山梨県警察本部交通企画課「交通事故のあらまし(令和7年中)」から、押さえておくべき数字を抜き出します。

事故の6割は「追突」と「出合頭」

事故類型件数(令和7年)構成比
追突685件約34%
出合頭556件約28%
上記2類型の合計1,241件約62%
県内 全事故2,014件100%

出典:山梨県警察本部交通部交通企画課「交通事故のあらまし(令和7年中)」

県内の事故の6割強は、この2つに集中しています。安全教育を「全方位」でやると効果が薄まります。まず追突と出合頭に的を絞る。これだけで対策の密度が変わります。

原因の最多は「安全不確認」

違反別に見ると、令和7年中の第1当事者の違反は安全不確認457件、動静不注視281件、前方不注意140件いわゆる「その他の安全運転義務違反」を含め、圧倒的多数が見ていなかった/見たけれど判断を誤った類のミスです。

これはスピード違反や飲酒運転のような「意図的な違反」とは性質が違います。意図的な違反はルールで止められますが、認知のミスはルールでは止まりません。止めるには、危険を「知識」ではなく「体験」として脳に入れる必要があります。

高齢者が関係する事故は全体の36.7%

令和7年中、高齢者(65歳以上)が第1・第2当事者のいずれかとなった事故は739件で全事故の36.7%。死者に占める割合は42.1%にのぼります。人口構成を考えれば、山梨の交通安全は高齢者対策と切り離せません。

人口10万人あたりでは、山梨は全国平均より悪い

令和7年中、山梨県の死者数は19人。実数では全国で少ない方です。ところが人口10万人あたりでは2.4人で、全国平均の2.06人を上回ります。「山梨は事故が少ない県」という体感は、必ずしも正しくありません。

事故を起こす会社と、信頼される会社の決定的な差

警察官時代、事故を起こした会社にも、起こさない会社にも数え切れないほど足を運びました。両者の差は、社長の人柄でも、車両の新しさでもありません。「何を数えているか」です。

差1|事故を起こす会社は「無事故日数」を数える

「無事故◯日達成」の掲示は、士気を上げる一方で、小さなヒヤリを報告しにくい空気をつくります。カウンターをリセットしたくないから、擦り傷を黙る。その黙った1件が、次の重大事故の予兆だったというケースを、私は何度も見ています。

信頼される会社は逆に、ヒヤリ報告の「多さ」を評価します。報告が増えることを、現場が正直になった証拠と捉えている。

差2|事故を起こす会社は「全員に同じ研修」をする

事故のリスクは、ドライバーによって桁違いに違います。せっかちな人、確認が甘い人、自信過剰な人——「型」が違えば、効く対策も違います。全員に同じビデオを見せる研修は、平等ですが効果的ではありません。

差3|事故を起こす会社は「知識」で止めようとする

先ほど見たとおり、山梨の事故原因の主役は安全不確認と動静不注視です。「確認しましょう」と言われて確認できるなら、誰も事故を起こしません。体が勝手に反応するレベルまで落とし込むには、危険な状況を安全に、繰り返し体験するしかありません。VRを使う理由はここにあります。

今週、社内でできる3つのこと

山梨県では令和8年度「夏の交通事故防止県民運動」が7月21日から7月30日までの10日間実施されています。重点目標は、①高齢者と子供の安全な通行の確保と高齢運転者の事故防止、②飲酒運転の根絶、③自転車等の安全適正利用の推進、④二輪車の事故防止の4つ。この機会に、次の3つを試してみてください。

  1. 「無事故◯日」の掲示を、いったん外す。代わりに今月のヒヤリ報告件数を貼る。件数が増えたら朝礼で褒める。
  2. 追突と出合頭に絞って、5分だけ話す。県内事故の6割はこの2類型。全方位より、狙い撃ちのほうが効きます。
  3. ドライバーごとの「クセ」を1枚に書き出す。感覚でかまいません。まず個人差があることを、管理側が認識するところから始まります。

そして、運動が終わる7月31日以降にこそ気をつけてください「10日間だけ安全な会社」で終わらせない仕組みをつくることが、信頼される会社への分かれ道です。

まとめ

  • 2026年の山梨県は、死者44.4%減の一方で、事故件数+3.1%、負傷者+5.8%
  • 事故1件あたりの負傷者は約1.17人→約1.21人へ。被害はむしろ重くなっている
  • 死者数の減少は、車両性能・シートベルト・救急医療という「事故後」の要因が大きい
  • 県内事故の6割強は追突と出合頭。原因の主役は安全不確認・動静不注視
  • 安全管理で数えるべきは、死亡事故の有無ではなく、ヒヤリと事故そのものの件数

「死亡事故ゼロ」は、目標であって、証明ではありません。その裏で何件のヒヤリが起きているかを知っている会社が、結果として事故を起こさない会社になります。


ファミリアのVR交通安全研修について

ファミリアは、山梨県で唯一、警察27年・警部経験者が直接講師を務めるVR交通安全研修を提供しています。追突・出合頭といった県内で多い事故類型を、実際に「体験」していただく研修です。あわせて、10問の設問でドライバーの運転特性を可視化する診断ツール(運転特性診断v7)もご用意しています。

運送業・バス/タクシー事業者、自治会、学校、企業の安全管理ご担当者さま、まずはお気軽にご相談ください。

参考・出典

※本記事中の「事故1件あたりの負傷者数」は、公表数値をもとに筆者が算出したものです。県警の公表指標ではありません。
※事故統計は日々更新されます。最新値は山梨県警察の公式サイトをご確認ください。

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