外国人観光客のレンタカー事故が20倍に 山梨でできる3つの備え

富士山周辺で外国人観光客のレンタカー事故が4年で20倍超に急増。元山梨県警警部(27年勤務)が、誰も責めずに事故を減らすための3つの備えを解説します。山梨のドライバー・企業・観光事業者の方は必読です。
富士山周辺で、外国人観光客が運転するレンタカーの交通事故が急増しています。その数は4年前の20倍超。2025年は975件にのぼり、2026年も5月末までに566件と、前年を上回るペースです。
テレビの情報番組でも取り上げられ、山梨で暮らす私たちにとって他人事ではなくなりました。
ただ、先にお伝えしたいことがあります。この問題の本質は「誰が悪いか」ではありません。
元山梨県警察の警部として27年間、数え切れない事故現場を見てきました。その経験から言えるのは、事故を減らすのは批判ではなく「備え」だということです。
この記事では、ニュースの事実関係を整理した上で、山梨のドライバー・企業・観光事業者が今日からできる3つの備えをお伝えします。
富士山周辺で何が起きているのか(数字で確認)
まず、報道と国の発表から数字を整理します。
- 富士山周辺の外国人観光客によるレンタカー事故は4年前の20倍超
- 2025年は975件(うち人身事故5件)
- 2026年は5月末までに566件で、前年を上回るペース
- 全国では、国際免許等の外国人運転者によるレンタカー事故が2020年の47件から2025年には212件に増加(国土交通省)
- 事故類型では、右折時事故の割合が日本人運転者の約2.7倍(国土交通省)
背景にあるのは、インバウンド観光の回復です。河口湖周辺のレンタカー店では、外国人利用者がコロナ禍前後で約5倍に増えたといいます。
観光客が増えること自体は、山梨にとって大きな恵みです。問題は、道路環境と情報提供が、この急増にまだ追いついていないことです。
事故が増える3つの構造的な理由
現場の視点で見ると、原因は「運転の上手い下手」ではありません。制度と環境の違いです。
左側通行への戸惑い
世界の約7割の国は右側通行です。右側通行の国から来た方にとって、日本の左側通行は感覚がすべて逆になります。
特に右折は、対向車線を横切る動きが母国と逆になるため、判断を誤りやすい場面です。右折時事故が日本人の2.7倍という国の数字は、これを裏付けています。
「止まれ」標識が伝わりにくい
日本の一時停止標識は、赤い逆三角形に日本語で「止まれ」です。一方、世界の多くの国では赤い八角形に「STOP」が標準です。
形も文字も違えば、standstillの合図だと気づけないのは自然なことです。レンタカー店の現場でも、出発前に必ず説明しているといいます。
観光地特有の狭い道
富士山周辺には、すれ違いの難しい狭い道や、急カーブが多くあります。地元の私たちでも気を使う道を、初めて走る方が戸惑うのは当然です。
元警部として伝えたいこと――「悪意のある事故」はほとんどない
27年間の警察人生で見てきた事故のほとんどは、「知らなかった」「見えなかった」「気づかなかった」ことが原因でした。これは国籍に関係ありません。
日本人ドライバーも、初めての土地や慣れない右ハンドル車では同じように戸惑います。海外で運転した経験のある方なら、実感があるはずです。
批判や排斥では、事故は1件も減りません。減らすのは、環境の整備と、私たち一人ひとりの防衛運転です。
山梨のあなたが今日からできる3つの備え
備え1:「わ」「れ」ナンバーの近くでは3つの行動を
レンタカーのナンバーは、ひらがなが「わ」または「れ」です。観光地の周辺でこのナンバーを見かけたら、次の3つを意識してください。
- 車間距離をいつもより1台分多くとる(急ブレーキ・急な進路変更に備える)
- 交差点では「来ないだろう」ではなく「来るかもしれない」で待つ(特に相手の右折時)
- 一時停止のある脇道からの飛び出しを想定する(標識が伝わっていない可能性を織り込む)
相手を警戒するのではなく、「戸惑っているかもしれない」と想像する。それが防衛運転の本質です。
備え2:企業は社用車ドライバーに「もらい事故」対策を
観光地を日常的に走る営業車・配送車は、事故に巻き込まれるリスクがそのまま経営リスクになります。もらい事故でも、社員の負傷や車両の修理で業務は止まります。
- 朝礼などで観光シーズンの注意喚起を共有する
- ドライブレコーダーの作動と保存設定を確認する
- 事故に遭った際の初動(負傷者救護・110番・会社への報告)を全員が言えるようにする
社員が「巻き込まれない技術」を身につけることは、会社を守ることと同じです。
備え3:観光に関わる事業者は「出発前のひと言」を
宿泊施設や飲食店で、車で移動するお客様に一言添えるだけでも効果があります。
- 「In Japan, we drive on the left.(日本は左側通行です)」
- 「The red triangle sign means STOP.(赤い三角の標識は止まれです)」
この2行を書いたカードをフロントに置くだけでも、立派な交通安全活動です。河口湖のレンタカー店では、外国語のパンフレットを使った出発前の説明をすでに実践しています。
おもてなしと事故防止は、両立できます。
国も対策を本格化しています
国土交通省と観光庁は2026年7月、空港周辺での交通安全対策を社会実験から本格導入へ移行すると発表しました。
- 右折動線を示すカラー舗装・路面表示
- 逆走進入を防ぐラバーポールの設置
- 左側通行への注意を促す多言語看板
まずは新千歳・福岡・那覇の各空港周辺で先行実施し、2026年度中に順次広げる計画です(出典:国土交通省 報道発表)。
富士山周辺への波及も期待されますが、環境整備には時間がかかります。それまでの間、現場を守るのは私たち自身の備えです。
まとめ:被害者にも、加害者にもならないために
- 富士山周辺のレンタカー事故は4年で20倍超。2026年も増加ペース
- 原因は「誰か」ではなく、通行方向・標識・道路環境の違い
- 私たちにできるのは、防衛運転・社内教育・出発前のひと言
著者プロフィール
雨宮 貴司(あめみや たかし) 元山梨県警察 警部(27年勤務)。交通事故分析システムの構築により山梨県警察本部長賞を受賞。JARI(日本自動車研究所)研修修了。行政書士。現在は山梨県甲府市で「ファミリア」を運営し、VR交通安全研修・運転特性診断・行政書士業務を通じて、山梨から交通事故を減らす活動をしています。


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